基礎工事の音に悩まされている、あるいは「自分が働く立場になったら迷惑をかけるのでは」と不安に感じている方も少なくありません。住宅街や市街地など、生活圏に近い場所で行われることが多いだけに、騒音への反応はとても敏感です。
実際、基礎工事ではショベルカーでの掘削や転圧機による締め固め、型枠の取り付け、コンクリートの流し込みなど、作業ごとに異なる「音」が発生します。特に掘削や転圧の振動音は広範囲に響くため、「うるさい」と感じられやすい工程です。
また、同じ音でも、何の予告もなく突然鳴り響くと、住民にとってはストレスになります。工事の内容を知らない人にとっては「何の作業か分からない音」が日中何時間も続く状況となり、想像以上に精神的な負担になることもあります。
働く側にとっては日常の作業音であっても、聞く人の立場が違えば感じ方は大きく変わる――この認識のズレが、「うるさい」という声を生み出す一因になっています。
騒音対策は義務?基礎工事と「環境基準」のリアル
「工事の音がうるさいのは仕方ない」と思われがちですが、実は法律上も一定の規制があります。代表的なのが「騒音規制法」です。これは、建設作業などによって生活環境が著しく損なわれることを防ぐために定められており、地域や作業内容に応じて基準値が定められています。
たとえば、多くの自治体では工事の作業時間が朝8時から夕方6時までに制限されており、それ以外の時間に騒音を発する作業を行うと、違反とみなされることがあります。これに加えて、土日祝日の作業や早朝の重機始動には、近隣からの苦情が入りやすいため、実務上も注意が必要です。
また、特定建設作業に該当する工事では、事前に自治体へ届け出を出す義務もあります。基礎工事も一定の条件を満たすとこの対象となり、防音対策や作業時間の制限を含めた計画が必要になります。現場監督や元請業者は、こうした届け出や苦情対応も含めて現場を管理しています。
もちろん、ルールさえ守ればすべて解決するわけではありません。住民の生活リズムや感覚の違いによっては、「法律上は問題がない」と説明しても納得されないケースもあります。そうした場合は、騒音そのものの抑制だけでなく、「なぜこの音が出るのか」「あと何日で終わるのか」といった情報提供が、理解につながる第一歩になります。
騒音対策してないわけじゃない。現場の“見えない工夫”
工事の音が聞こえると、「対策をしていないのでは?」と思われがちですが、実際の現場ではさまざまな工夫がなされています。ただ、その多くは作業の合間や工程のなかに組み込まれており、外からは見えづらいのが実情です。
たとえば、重機のエンジン音や振動を抑えるために、作業車を必要最小限の時間だけ稼働させる、騒音が出やすい工程を1日の早い時間に集中的に行うといった配慮は、日常的に行われています。また、近隣への音の広がりを抑えるために、防音シートを仮囲いに設置する現場もあります。
さらに、現場入りの前段階で、近隣住民へのあいさつや工事説明のチラシ配布が行われることも多く、これは単なるマナーではなく、トラブル予防の一環として重要な役割を果たしています。「何の工事か分からない」ことが、不要な誤解や不安を生むため、事前のひとことが大きな効果を持つのです。
ただし、これらの対策にも限界があります。完全な無音の工事は不可能ですし、天候や工程の都合で音の強弱や時間がずれることもあります。そのため、現場では「できる範囲で最善を尽くす」ことと、「万が一苦情があった場合の対応」がセットで考えられています。
音をゼロにすることはできませんが、工夫と配慮の積み重ねで「不快」を「理解」に変える努力は、確実に現場の信頼につながっています。
ずっと爆音の中?働く人の「耳」と「体」は大丈夫?
工事音にさらされるのは、近隣の方々だけではありません。現場で作業する職人自身もまた、日々の騒音と振動のなかで働いています。重機のエンジン音、転圧機の響き、鉄をたたく音などが繰り返される環境は、想像以上に神経を使うものです。
長時間の作業による耳への負担を軽減するため、多くの職人は耳栓やイヤーマフなどの防音具を使用しています。ただし、これらは完全に音を遮断するものではなく、周囲の声や危険のサイン(クラクション・指示の声など)も聞き取れるよう設計されています。つまり、「慣れ」でカバーするのではなく、必要な音は聞きつつ、不快な音だけを和らげる工夫が求められます。
さらに、音だけでなく振動も体にじわじわと影響します。特に転圧機やブレーカーを扱う場面では、腕や腰への負担も大きく、疲労が蓄積しやすくなります。休憩をしっかり取り、無理のない姿勢を保つことが、安全にも直結します。
新人のうちは、こうした音や振動に圧倒されることもありますが、現場では周囲がその変化に気づきやすく、こまめに声をかける文化が根付いています。職人同士の声かけやサインは、作業の効率だけでなく、こうした負担を和らげる意味でも大切な習慣です。
音の多い現場だからこそ、体調の変化や小さな違和感に敏感であることが、働くうえでの基礎になります。単に「うるさい場所で頑張る」のではなく、「自分を守りながら働く」意識が、長く続けるためには欠かせません。
苦情対応が上手い職人ほど、現場で長く信頼される
基礎工事では、作業そのものだけでなく、周囲との関係づくりも重要な仕事のひとつです。中でも「騒音」に関する苦情対応は、職長や監督だけの役目ではなく、現場で働く全員のふるまいに関わってきます。
たとえば、近隣の方から「昨日の音が気になって…」と声をかけられたときに、現場の誰もが「それは申し訳ありません」と自然に応じられるかどうか。それだけで、相手の印象は大きく変わります。苦情は作業内容だけでなく、言い方や態度に対して向けられることも多いため、話し方ひとつが信頼に直結するのです。
また、朝のあいさつや清掃も、音に対する印象を左右する要素です。音が出るのは仕方がないとしても、「丁寧に作業してくれている」「現場がきれい」と感じてもらえれば、不快感はぐっと和らぎます。そうした積み重ねが、「ここは信頼できる現場だ」と受け止めてもらえる土台になります。
現場によっては、元請け会社が近隣への説明会を開くこともありますが、実際に作業する職人のふるまいが悪ければ、すべて台無しです。逆に、職人が丁寧で親身なら、多少の音も「仕方ない」と受け止めてもらえることがあります。
とくに若手のうちは、「自分には関係ない」と思いがちですが、現場での印象は日々の行動で決まります。音を出す側だからこそ、出した後の対応まで含めて「仕事の一部」として捉えることが、長く信頼される職人への第一歩です。
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働くうえでも暮らすうえでも、“音”は無視できない要素
騒音というと、つい「迷惑をかける側」「かけられる側」と分けて考えがちですが、実際には誰もがどちらの立場にもなり得ます。働く人も、暮らす人も、それぞれの視点で音と向き合う必要がある時代です。
基礎工事は、音を完全になくすことができない仕事です。しかし、その中で「どうすれば少しでも不快感を減らせるか」「どんな伝え方をすれば理解してもらえるか」と考え続けることが、技術者としての成長にもつながります。
音は、目に見えないぶん、丁寧なふるまいや対話がより重要になります。日々の現場での一声や行動が、近隣との関係だけでなく、自分自身の働きやすさにも影響することを、現場に立つ中で自然と感じるようになります。
音に無関心ではいられない時代だからこそ、それを“配慮力”として活かせる人が、これからの現場でより求められていくはずです。
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